ルルルとリリリ(上) 〜とっても小さな九つの国②〜

¥200
0 ratings

本作『ルルルとリリリ』は、ほんわかとしたお伽噺『フックフックのエビネルさんとトッカトッカのカニエスさん』の五年後のお話です。著者ブログに連載されたものに加筆修正し、全話の扉に描き下ろしの挿し絵を加えました。挿し絵の数は上下巻合わせてなんと93点!

(前作をお読みになっていなくてもお楽しみになれます)

〜ものがたり〜

ルルルとリリリがそれぞれの国に帰って五年が経ちました。平和な暮らしが続いていたと思ったのに、リリリのもとには良くない噂が聞こえてきます。モースモースの国にまたも恐ろしい大蛇が現われ、子供たちをさらっているというのです。

ルルルの住むユッポユッポでも、ずっと姿を現していなかった化け物イカがまた出てきて、とうとう犠牲が出てしまいました。

二人はそれぞれ、どうにかしなきゃ! って思いました。でも、どうすれば良いのでしょう?

ルルルは、そしてリリリは考え、行動を始めます!

楽しくてちょっぴり怖くて、勇気もりもりの冒険が待っています。

さあ、みなさんも一緒に旅立ちましょう!


■■■ 立ち読みコーナー(電子書籍では全漢字にルビを振っています)■■■


1.ロンシルと斧

 夕べは少し飲み過ぎちゃったみたいだなぁ、と思いながら、青年ロンシルは砂浜を散歩していました。夕べは何を飲み過ぎたかって? お酒ですよ、もちろん!

 さて、それは嵐の過ぎたある爽やかな朝のことでした。ここは、海沿いにあるプーレプーレの国の小さな村です。ロンシルは、柔らかい砂に時おり足を取られながら、寄せては返す波をぼんやりと眺めていたのでした。

「ふわぁあ」

 周りに誰もいないからって、こんな大あくびして。

「あれ、あんなところに小さな舟が──」

 ロンシルは、見慣れない小さな舟が砂浜にあることに気づいたのでした。そして、あっ、と驚きの声をあげました。その舟は、縦真っ二つに割れているようなのです。

「何だろう、難破船かな」

 ロンシルは小走りで舟に近づきました。もしもそうだったら、誰かが中で倒れていて助けを求めているかもしれません。

 でも、そこには誰もいませんでした。その代わりに、朝陽を受けてキラキラと光る美しい一丁の斧が、割れた舟底のかたすみに引っ掛かっていました。刃は斧にしてはとても薄く、鋭利だけれど、とても太い木を倒せるほど頑丈な作りには見えません。でも持ち手は太くしっかりしていて、握りやすそうでした。手に取ってみると、とても軽くて、決して体格がいいとは言えないロンシルでも自由自在に振り回すことができました。

「とても美しい斧だなあ、美術品のようだ」

 ロンシルは、嬉しそうにそうつぶやきながら斧を肩に乗せ、家に帰って行きました。

「ねえ、母さん、見てごらんよ、これ」

 ロンシルは得意げに、母のネーメに見せました。

「ほう、立派な斧じゃないか。どれどれ、なんだかちょっと変わってるねえ。こんなもの、どうしたんだい」

「砂浜に打ち上げられてた小舟にあったんだ」

「誰かの大事なものじゃないのかい? 人のものを勝手に持ってきたらだめじゃないか」

 何だか小さな子供に言う言葉みたいですね、ロンシルは立派な青年なのに。

「それがね、母さん。その舟ってのは、真ん中から真っ二つに割れてたんだ。きっと、嵐で難破したにちがいないよ。乗ってた人は海に投げ出されてしまって、とうに亡くなってるんじゃないかな」

「そうかい……。それなら、天からの授かりものだ。大事にするんだね」

「ああ、もちろんだよ」

 朝ごはんを終えると、ネーメが言いました。

「なあロンシルよ、その斧で、木を切ってきておくれよ。夕べのおかしな嵐で、屋根が少し壊れてしまったろう。お前、何とか直せないもんかね」

「ああ、そうだね、じゃあやってみるよ」

 ロンシルは母親思いの良い息子でした。父親はずっと遠くに出稼ぎに行っていましたから、ロンシルは大事な男手なのです。プーレプーレの村はせっかく海沿いにあるのに、海からの恵みだけでは食べてゆくことすらもできません。潮の流れが急なせいで、頑張って船をこいでもすぐに岸に戻されてしまって、売るほどの魚が獲れることもなかったのですから。

 ロンシルは、裏の小山に出かけて行きました。そこへ行けば硬くてしかもしなやかな木がたくさん生えていることを、知っていたのです。木肌が滑らかで自分の首周りと同じくらい太い木にロンシルは目を留め、それを切ることに決めました。

「そーれっ!」

 掛け声も勇ましく、ロンシルは思いっ切り斧を振り下ろします。

 カーン!

 

 甲高く乾いた音が、青い空に響き渡りました。あまり力持ちではないロンシルですが、輝く斧は太い木の幹に深々とめり込んだのです。

「よーし、もう一回」

 ロンシルは力いっぱい、斧を引き抜きます。いえ、引き抜こうとします。

 ところが、幹に深々と食い込んだ斧はびくともしません。ロンシルは懸命に力を込めて斧を引き抜こうとしましたが、どんなに押しても引いても少しだって動かすことができませんでした。ロンシルの額からは、玉のような汗がしたたり落ちます。

 やがて、空の色が茜色に染まり、疲れ果てたロンシルはその場で眠り込んでしまいました。


(全体で約224ページのボリュームです。Gumroadで自動計算されたページ数は誤りですので、ご注意下さい)

I want this!
Size
13.7 MB
Length
10 sections
Copy product URL
¥200

ルルルとリリリ(上) 〜とっても小さな九つの国②〜

0 ratings
I want this!